キムチ()は、白菜などの野菜を薬念などで漬けた、朝鮮半島を発祥とする漬物である。朝鮮漬とも呼ばれる。
単独で、あるいはつけ合せ(特に焼肉店)として食べられるほか、豚肉と一緒に炒めた「豚キムチ」などの材料や、チゲの具(キムチチゲ)としても用いられる。
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thumb|right|キムチ製造用に乾燥中の唐辛子
一般的なキムチは唐辛子が大量に使われており、真っ赤な色の漬物である。唐辛子の強い刺激、白菜の甘味、薬念と乳酸発酵による酸味旨味と塩辛さが複雑に混じり合った風味が特徴である。その強い刺激や薬念に使うニンニクのにおいから、敬遠する人もいる(唐辛子やニンニクを使わないキムチも存在する)。
朝鮮半島だけではなく、海外においても、朝鮮民族が多く暮らす地域では、市場などでもキムチは入手することができる。ソビエト連邦時代に沿海州から朝鮮系住民(高麗人)が移住したウズベキスタンでは、市場やレストランでもキムチ(シムシャとも呼ばれる)が見られる。
伝統的な製法のキムチは発酵食品であるためガスが発生する。そのため、完全な密閉容器にキムチを詰めて室温で保管していると、数日で破裂する恐れがある。
2011年7月1日、『韓国のキムチとキムジャン文化』を2012年の国連教育科学文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産(俗称:世界無形文化遺産)への登録を目指し申請すると、韓国の文化財庁が正式発表した。中国の国務院がアリラン、伽椰琴、回婚礼、シルム(韓国相撲)などの朝鮮文化を第3次国家無形文化遺産に登録したことが2011年6月21日に中国国内で報じられたが、韓国では翌22日からこの報道が大きな波紋を呼んでいた。中国の動きに対する反動として突然決定された。
言葉
語源に関する説は各種あり、定かではない。朝鮮語で「野菜を漬けたもの」の意である沈菜(、チムチェ)が語源とする説や、沈漬(チムチ)、鹹菜(ハムチェ)を語源とする説などがある。
英語表記
キムチの英語表記について、Kimuchi(日本語・カナから転写)と表記し発売・輸出したものが日本で定着し世界に広がりつつあった。韓国はKimchi(朝鮮語音からマッキューン=ライシャワー式にて転写)であると主張し、1996年3月に国際食品規格委員会(CODEX)のアジア部会にて当記述が認められた。文化観光部2000年式ではGimchiであり、こちらの表記で書かれる場合もある。
アメリカ合衆国などの英語圏においては、より発音に忠実なkim cheeという表記も多く見られる。
thumb|right|唐辛子伝来前のキムチ
ソウル・キムチ博物館にて
韓国では一般に、キムチの文献初出を13世紀初頭としている。李奎報(1168年 - 1241年)の詩集『東國李相國集』に収録されている「家圃六詠」という詩に「菁(かぶら)」という部分があるが、その中の「得醬尤宜三夏食 漬鹽堪備九冬支」をもってキムチの初出としている。「(かぶらは)醤漬けして夏に食べるのがよく、また塩漬けして冬支度に備える」という意味である。なおこの記述の中に「キムチ」という名称は登場しない。また該当の食べ物は日本や中国の漬物と特に変わりがなく、唐辛子や白菜を使用するといったキムチの大きな特徴はまだ見受けられない。
16世紀、朝鮮半島に日本から唐辛子が伝来してしばらくしてから、唐辛子を用いて作られるようになった。唐辛子の普及以前においてはもっぱら。なぜ唐辛子を山椒の代わりに使用し始めたかについては明らかにされていない。
持ち込まれた当初、朝鮮では唐辛子のことを倭芥子、若しくは倭椒と呼び、毒があるとして忌避していたが、後にキムチをはじめとした料理に用いるようになった。1670年のハングル料理書『飲食知味方』に出てくるキムチは、唐辛子を使用したものは一つも見られず、 19世紀の文献『閨閤叢書』(1809)に出てくるキムチを見ると、粉の唐辛子ではなく千切りの唐辛子が少し入れる製造方法が記録が残っており(日本で「朝鮮漬け」として知られている漬物に似たもの)、19世紀前後に唐辛子が使用され始めたことが推測される。
また現在食べられている白菜は、中国人が品種改良によって生み出した人工的な野菜であり、今の結球型の白菜が完成したのは18世紀以降とされる。よって唐辛子と白菜を使ったキムチの登場は、どんなに早くても18世紀以降と考えられる。
キムチに使われる唐辛子は、豊臣秀吉の朝鮮出兵の際に日本が朝鮮半島に持ち込んだものが起源とされる。この頃日本で唐辛子は毒草と考えられており、食用ではなく武器であったとされる。凍傷予防の薬として持ち込んだという説もある。また、江戸時代に朝鮮通信使が持ち帰ったという説もある。それ以前は塩などに漬けられていた。
昭和後期に入る頃までは、その辛さやニンニクの臭みが日本人の味覚に合わなかったことから、存在は知られていてもあまりなじみのないものであり、キムチという名称も一般的ではなく「朝鮮漬」と呼ばれることが多かった。
しかし1980年代後半に激辛ブームが起こると消費量が増加、ブームが沈静化した後も一定の販売数を保ち、一般のスーパーマーケットやコンビニエンスストアで手に入る。一般のスーパーでは日本国産のキムチが売られていたが、1990年代から急速に消費量が増え、韓国から輸入されたキムチも流通しはじめた。社団法人・食品需給研究センターによると、キムチは2004年に日本国内で浅漬けに次いで2番目に多く消費された漬物とされている。
だが、日本の韓国からのキムチ輸入量は2005年をピークに減少を始め、現在では日本国内で流通するキムチの主流は日本産になっている。これには韓国産のキムチから寄生虫が発見された事件が大きく起因しており、2005年から2006年の間に日本のキムチ輸入量は46.4%減少している。
韓国のキムチ
thumb|280px|キムチ壺(ハンアリ)。屋外に置くことが多いため、雨露が入らないような蓋がついている(2006年5月13日撮影)
一般的な白菜キムチは以下のように漬ける。
白菜を一日ほど塩に漬ける。
これを水で洗って塩抜きし、葉に薬念をまぶして壺に本漬けする。薬念としては、唐辛子、ニンニク、ニラ、塩漬けされたアキアミ(日本ではアミエビの名が一般的)、イカ、イシモチ、イワシなどの塩辛、魚醤の他、牛肉や煮干し、昆布などの出汁を合わせたものが用いられる。リンゴ、梨、栗、ナツメなど果物を加えて味をまろやかにしたり、生のカキやイカを加えコクやうまみを補ったりすることもある。
本漬けで4、5日ほど発酵させると出来上がりである。
日本で売られているキムチは、日本人向けに味付けされたものがほとんどで、韓国のキムチと比べると酸味が抑えられ甘みが強い。
北朝鮮のキムチ
朝鮮民主主義人民共和国のキムチは、韓国とほぼ同様であるが、比較的酸味が抑えられ甘みがひきだされている。
日本のキムチ
日本では浅漬けの製法(白菜の塩漬けに調味料を加える方法)でもキムチが作られており、浅漬けキムチ、和風キムチなどと呼ばれ、韓国式のキムチとは区別されるが、ごく近年に生まれた食文化で「北朝鮮風」「日本風」と分類することは困難である。
韓国式のキムチと和風キムチの違いは、主に乳酸発酵の有無にある。韓国の製法では乳酸発酵が行われる。時間の経過で乳酸発酵が進み、酸味が強い。韓国式キムチは濃厚な味わいがあるが、発酵臭とニンニクの香りが混ざった強い臭気が伴うので日本では好みが分かれる。一方、日本式のキムチは浅漬けに調味液によるキムチ風辛み味付けをした物で、あっさりした物が多い。日本では韓国式の製法によるキムチと浅漬けキムチの双方が広く生産され、販売されている。2000年代現在では「キムチの素」などの名称の調味料が販売されており、一般家庭でも容易に浅漬けキムチを作ることが可能である。
様々な具材を使ったキムチがあり、その数は200種類以上あると言われている。
; ペチュギムチ()
: 白菜のキムチ。単に「キムチ」と称した際はこの白菜キムチを指すことが多い。19世紀に中国で新品種の白菜が輸入され一般的になった。
; オイギムチ()
: 胡瓜のキムチ。オイソバキ、オイキムチとも。
; カクトゥギ()
: 大根のキムチ。カクテキとも。大根をさいの目に切って作る。
; チョンガクキムチ()
: チョンガク大根(小型の大根)のキムチ。
; ポサムキムチ()
: 開城地方の名物。生のイカやカキなどを白菜の葉で包んで漬ける。保存がきかないため二、三日で食べきらなくてはいけない。ポッサムキムチとも。
; ヤンベチュキムチ()
: キャベツ(、洋白菜の意)のキムチ。白菜の手に入りにくいヨーロッパなどへ移住した朝鮮系住民によってよく作られていた。新しく開発された特殊な乳酸菌を用いて、キムチにすることに成功し一部で市販されている。長期保存可能な食品に加工できることは、キャベツが生産過剰となった場合の有効な利用も期待できる。
; ムルギムチ(、水キムチ)
: 唐辛子とニンニクを使わない、汁気の多い白いキムチ。汁ごと食べる。ムルギムチの汁は冷麺の汁には欠かせない。
地域によりキムチの種類も異なり、北に行くほど薄味に、辛さも控えめになる傾向にある。朝鮮半島北部のキムチは汁気が多く、野菜の素材の味を生かしたものであるのに対し、南部のキムチは唐辛子が多くなり汁気は少ない。この理由として気温が高い南部では亜熱帯性の作物である唐辛子の生産に適していたこと、また同時に豊富に獲れた魚介類を積極的に用いたため臭み消しや保存性を高める目的から唐辛子や塩を多く用いる必要があったことが挙げられる。
また離乳食用に薄味のペースト状になった「赤ちゃんキムチ」や辛さを抑えた「子どもキムチ」も韓国では販売されている。
韓国政府(保健福祉部)が2005年に行なった調査によると、韓国成人の塩分摂取量が世界保健機構(WHO)推奨値の2.7倍と極端に多いことが判明した。
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唐辛子を多く摂る韓国のような国では胃癌の発癌率が高く、唐辛子の中に含まれる「カプサイシン」が発がんを促進させる物質となっていることが韓国内の大学で解明された[[http://japanese.yonhapnews.co.kr/itscience/2010/09/06/0600000000AJP20100906001300882.HTML]
カプサイシンががんの発生促進、建国大教授らが解明-2010年9月6日] 聯合ニュースより。。ほか、それらに対する報告も指摘されている。
朝鮮半島では毎年秋に越冬用として大量のキムチを漬ける。これを「キムジャン」という。大企業などではそのためのボーナスも出る。韓国では儒教の影響で女性が飲酒や娯楽に興じることは以前は許されていなかったが、キムジャンの際は公然とそれらを行うことができ、女性たちの祭りに相当するものであった。
韓国は自国産のキムチを日本などに輸出する一方、安価な中国産キムチを輸入しており、輸入量が輸出量を上回るほどである。安価な中国産キムチの用途は主として飲食店で出される「突き出し」である。日本の喫茶店で出される水や寿司屋のガリが基本的に無料であるのと近似しており、韓国における飲食店でのキムチを含む副菜、日本での「水」「ガリ」は無料で補充される。中国文化圏においても「ソルト・ピーナッツ」や「白菜漬け」等の「突き出し」は供されるが、あくまで前菜の一部である。
韓国ではポピュラーな家電製品として、発酵や保存に適切な温度を保つことが出来るキムチ専用の冷蔵庫、「キムチ冷蔵庫」も販売されており、LG電子では日本でも「食品貯蔵庫」として発売している。
他に韓国では日本でいう「ショーグン債」に該当する債券で、外国企業が外貨建てで韓国において募集する外貨建外債「キムチ債」が発行されたり、写真を撮る際、主に「チーズ」の代わりに「キムチ」と言ったりするなどキムチは韓国文化に根ざしている(ただし「チーズ」も時々使われることがある)。
2008年9月には、キムチ体験テーマパーク、キムチ博物館、多目的体験場、低音貯蔵庫などの施設を備えた「キムチ村」が大韓民国京畿道漣川郡にオープンしたapp.yonhapnews.co.kr/YNA/Basic/ArticleJapan/ArticleMPIC/YIBW_showArticleMPICPopup.aspx?contents_id=MYH20080919001900882。
2005年10月、韓国で中国産の輸入キムチから寄生虫の卵が検出され問題となった。韓国政府が調査した結果、韓国産のキムチにも寄生虫卵が発見された。寄生虫卵は未熟性のものであり、主に白菜から検出された。これらは、土中の人糞、犬猫などの動物の糞尿が感染源と見られ、製造過程に於ける白菜の洗浄が適切でなかったためと見られている。食べても問題はないとしたが、韓国政府は該当する製造メーカーに対し洗浄の徹底と寄生虫卵の残留可否を検査するように義務付けた。
2005年11月、「日本国内で市販されていた韓国産キムチから回虫の卵が見つかった」という事件があった。
2005年の健康性労働省検査結果では、大韓民国のキムチの寄生虫検査では、139件の内、63件に寄生虫が発見された。さらにこの事について、東京新聞は2005年11月26日「キムチは最近、寄生虫卵騒ぎで不評だが、なあに、かえって免疫力がつく。 」と報じた。
2005年11月 中国、韓国へのキムチ輸出中断
「中国側から韓国への輸出を全面的に中断している。今回の措置は、韓国が中国産キムチを問題としたことに対して、全面輸出中断という超強行手段に出たものと見られている。中国内のキムチ輸出企業は、韓国人が独自または合弁で投資した会社がほとんどだ。山東省と青島と北京などのキムチ生産業者によると、中国輸出入検疫局は2005年11月1日から韓国へ輸出されるキムチに商品検査証の発給を全面中断している」
2006年、アジア大会2006選手村(ドーハ)において「飲食物持ち込み規制」をされているのにも関わらずこのルールに従わずに韓国選手団がキムチを持ち込み、没収されたことに選手や韓国オリンピック委員会職員(KOC)が執拗な抗議をしたため、警察が出動してKOC職員が勾留される騒ぎがあった。。
* 家永泰光、盧宇炯(共著)『キムチ文化と風土』 古今書院、1987年12月、ISBN 4772211012
* 李連順『キムチ物語』 光村推古書院、2002年12月、ISBN 4838199163
* 李御寧、李圭泰、金晩助(共著、金淳鎬訳)『キムチの国』千早書房、2000年12月、ISBN 488492259X
* 李信徳『韓国料理 伝統の味・四季の味』 柴田書店、2001年12月、ISBN 4388058955
* 講談社編『極辛版キムチ大探検』(講談社文庫) 講談社、1988年8月、ISBN 4061842285
* ジョン・キョンファ『キムチの味』 晶文社、1993年12月、ISBN 4794961510
* 田村研平『在日キムチにおける誤解 食と難民をつなぐ関係』 情報センター出版局、1988年4月、ISBN 4795807426
* 谷川彰英(監修)『国際理解にやくだつNHK地球たべもの大百科 9 韓国』 ポプラ社、2001年4月、ISBN 4591067149
* 崔弘植(盧宇炯訳)『キムチ力』 YB出版、2001年6月、ISBN 4901337130
* 鄭大聲『焼肉・キムチと日本人』(PHP新書) PHP研究所、2004年2月、ISBN 4569634001
* 豊田有恒、豊田久子(共著)『豊田さんちのキムチ大作戦 キムチの漬け方、食べ方、健康法』 有楽出版社、1999年3月、ISBN 4408591246
* 韓福麗(守屋亜記子訳)『キムチ百科 韓国伝統のキムチ100』 平凡社、2005年9月、ISBN 4582127215
* Visson, Lynn. ''The Art of Uzbek Cooking.'' Hippocrene, New York, 1999. ISBN 0781806690
* 朝倉敏夫、蔡淑美(共著)『NHK趣味悠々キムチへの旅 -作って・食べて・知る-』 日本放送出版協会、2003年11月、ISBN 978-4141883739
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